松阪市の曾原大池、通称ボラ池で繁殖したセイタカシギです。
三重県におけるセイタカシギの繁殖は四日市市で2008年と2009年に記録されています。
四日市市以外では2012年に松阪市のボラ池で1つがいの繁殖が成功しました。
当池では巣が豪雨で流されたり卵が捕食されたなど2011年から2013年の3年間で5度繁殖が失敗しています。
四日市市の繁殖場所は埋め立て地でしたが今回は池の小さな中州での繁殖と言うことでいろいろ分かることもありました。

孵化して3日目のコチドリの雛がいる河川敷の中州が夜半の豪雨で流されたことがあります。
翌日、見に行くと雛が3羽、親鳥と一緒に対岸の堤防上にいます。
生まれて3日目の雛が5m程とは言え急流を対岸まで泳いだのか不思議でした。
シギ・チドリ類の繁殖で最大の関心事は孵化した雛はいつから泳げるようになるのかでした。


観察と撮影は堤防上からで巣までの距離が約40m。堤防は水面から約7m程の高さがあります
上から斜めに見下ろす位置と40mという距離から静かに観察すればは親鳥に警戒心を与えず
雛にストレスを感じさせない距離でした
三重県ではシギ・チドりの入る池として知られていますが思ったより観察者が少なかったこと、
観察マナーが守られていたことが巣作りから成長するまでの128日間の観察記録を残せた大きな要因になりました。



2012年6月29日に1個目を産卵し7月2日に4個の卵を産み終え抱卵を始めました。

抱卵は卵を温めるだけでなく、直射日光が当たり高温になると親鳥は体で影を作り卵を冷やします。
温めたり冷やしたり温度管理をしながら雌雄交替で抱卵が続きました。



抱卵を初めてから23日目に2羽が孵化しました。午後2時に1羽目、午後4時に2羽目が孵化しました。

画像は7月25日の午後4時47分の撮影です。
1羽目の雛が孵化して約3時間後、2羽目が孵化してから約50分後です。2羽目が初めて巣の上に立ち上がったところです。
1羽目が巣の下におりだすと2羽目も1羽目の後を追うように巣の下に下りだしました。孵化して47分後でした。



2羽の雛はふらつきながら転びながら巣の下まで降りて巣に沿って歩き出しました。
巣の上から巣の端まで歩くのに9分かかりました。
最初に孵化した雛はこの時自力で餌を捕っていましたが2羽目は餌を捕ることなく巣の上に戻りました。



7月26日の午前5時に3羽目。翌日の7月27日午前5時に4羽目が確認されています。
4羽目の雛が見られた27日の午前5時に卵の殻を数メートル先に捨てた親鳥が目撃されているので
孵化した直後だったのでしょう。

雛は生まれて間もなく歩くだけでなくその日のうちに泳ぎました。
右の泳いでいる画像は4羽目の雛が生まれた日の午後5時39分撮影です。



同じセイタカシギ科のソリハシセイタカシギは水かきが発達しているので泳ぎます。
セイタカシギも水鳥なので泳げないとは言い切れませんが成鳥も若鳥も泳ぐのを見たことがありません。
泳ぎが得意でないことは水かきが発達していないことからも分かります。

しかし池の小さな中州で生まれた雛たちは生まれた日からよく泳ぎます。雛は体に比べ足が発達しています。
体が小さいので水の抵抗が少なく水かきがなくても足指の力で泳げるのだと思います。



冷えた体を温めるために親の懐に潜り込む雛です。親鳥の抱雛は孵化後10日ほど続きました。

右側の画像では♂親が雛を抱いて♀親が周囲の警戒に当たっていますが育雛に雌雄の役割分担は見られません。
♂親が周囲を警戒し、♀親が雛の面倒を見ることが多いです。



雛は生まれたその日から泥の中に嘴を突っ込み餌を捕っています。微生物だろうと思ってもなにかは分かりませんでした。
翌日に雛が食べているものを撮影できました。小さな虫のように見えます。



孵化後4日目です。 夕刻になると雛は40m程離れた葦原の先端部のねぐらに泳いで移動します。
翌朝にはねぐらから巣に戻る雛が見られます。 ねぐらと巣を移動する雛の行動が毎日続いています。

右は葦原に入った雛に葦原から出るように呼びかける親鳥です。 葦原の中では外敵が見えず雛を守ることができません。



孵化後7日目です。翼を伸ばそうとする雛です。 雛の成長は早いです。一日一日たくましさを増してきます。



孵化後12日目と15日目です。雛は生まれた時は綿羽に覆われていますが
孵化後半月近くなると外見から幼羽が明らかに分かるようになります。黄褐色の羽縁のある羽が幼羽です。



孵化後20日目です。 小魚を捕らえることができるまで成長しました。
小魚をなんども捕えては飲み込みました。ハゼの幼魚のようです。



孵化後20日目です。翼が目立って伸長してきました。羽をばたつかせるがまだ空中に体を浮かすことはできません。

右側の画像で体の大きさが分かります。孵化後20日目の雛の背丈は親鳥の足の半分ほどしかありません。



孵化後22日目です。疲れると巣に戻り休息します。 生まれた巣がもっとも安らげる場所なのでしょう。



孵化後23日目と24日目です。 翼が日に日に伸長していますがまだ飛び上がることはできません。



ホウロクシギが近くに下りても警戒しない。 孵化後25日目にして他の鳥を威嚇しなくなりました。
親鳥の警戒心も雛の成長とともに薄れています。



孵化後25日目の雛です。雛と言う呼び方が似合わなくなってきました。
綿羽から幼羽への換羽が進み随分幼鳥らしくなりました。



孵化後26日目です。 羽をバタつかせ飛んだと言うより走っている感じでしたが
水面から空中に始めて体が浮いて10メートルほど移動できました。



孵化後27日目です。 夕刻には決まったねぐらに向かう行動が続いています。



孵化後28日目と30日目です。 他の鳥を警戒しなくなった親鳥も同じセイタカシギは執拗に追っ払います。
同種に対しての縄張り意識が強いです。



6月25日に最初に孵化した雛で34日目、 27日に孵化した雛で32日目です。

50-100メートル飛びました。上空から初めて見る景色になんとも気持ち良さそうです。
抱卵を始めてから57日目になります。



孵化後33日目です。約1カ月で幼綿羽から幼羽に全ての羽を換羽しました。
ふわふわの綿羽から成鳥羽と同じ作りの幼羽に換羽完了です。羽縁が黄褐色で羽模様がとても綺麗なフレッシュな幼鳥です。



孵化36日目です。親鳥に比べ体はまだまだ小さいです。



孵化後60日目です。約2か月で♀親と変わらぬところまで雛は大きくなりました。
当つがいの♀親は体が小ぶりなのでまだ成鳥と同じ大きさになったとは言えません。
セイタカシギは♀より♂のほうが大きい傾向にあります。



孵化後66日です。体の大きさから親子の区別がつかなくなりました。



孵化後70日目に2羽の雛が親離れしていきました。

孵化後128日目、約4ヶ月で第1回冬羽に換羽しました。背・肩羽が新しい冬羽に生え換わりました。
ここまで128日間の雛の観察でした。この後、池の水が深くなりセイタカ家族は移動していきました。

次に雛の成長過程を羽の変化に焦点を合わせ大きな画像で見てみます。



孵化後3日目の雛です。綿羽に覆われています。



孵化後8日目です。まだ外見から幼羽が見えません。



孵化後15日目です。上面の幼羽が外見から分かります。黄褐色の羽縁のある羽が幼羽です。



孵化後23日目です。上面に黄褐色の羽縁がある幼羽が増え、頭部と後頸にも幼羽が目立ってきました。



孵化後28日目です。中雨覆と大雨覆に部分的に綿羽が残っています。風切羽も伸長してきました。



孵化後35日目です。幼羽に換羽しました。幼綿羽から全ての羽を幼羽に換羽しました。



孵化後128日目です。第1回冬羽に換羽しました。背・肩羽・三列風切が冬羽に換羽しました。
雨覆に羽縁のある幼羽が残っています。初列風切も幼羽です。



最後に繁殖に失敗したつがいが2度目の繁殖までどれほどの期間をおくのかを2013年のつがいが答えを出してくれました。
当つがいは繁殖に失敗した後も同池に居残り2度目の産卵を始めました。繁殖に失敗してから8日目でした。

2度目も卵を何者かに捕食され失敗に終わりました。
その後8日間姿がなかったが再度池に戻ってくると♀が足に故障を抱えていました。3度目の産卵は無理な状態でした。
6月29日、当つがいの交尾が目撃されていますが絆を確かめるための疑似交尾だったと思われます。




セイタカシギの繁殖生態 雛の成長過程を追う

2013年9月7日 プレゼン