三重県でセイタカシギの繁殖が成功した事例は3例ありますが、そのうち私が観察できた一例を紹介します。
その一例は2012年に松阪市曽原町にある池の小さな中州での繁殖です。



この池には名前がなく曽原町にあることから曽原大池と呼ばれてもいますが
正式の名称でないため地図には名前が載っていません。通称ボラ池と呼ばれている淡水の池です。

五主海岸から曽原海岸の堤防内側には複数の水路と池があります。
ボラ池はそのうちの一つで水量の調節ができない池なので雨量が多いと水位があがり
シギ・チドリ類の生息環境が失われます。普段は水深が深いところでも20cmほどの池です。



2012年のボラ池では6月下旬に4つがいが飛来し、うち3つがいが営巣しました。
3ヶ所の巣のうち2ヶ所は卵を何者かに捕食され失敗に終わっています。
図の@とAが繁殖に失敗した地点でBが繁殖に成功した地点です。
3ヶ所の巣の間隔は約70〜80mでした。

繁殖に成功したのは池の小さな中州で営巣した一組のつがいでした。
ボラ池におけるただ一度の繁殖成功であり
そのセイタカシギの繁殖を雛の生態と成鳥過程に重点をおいて128日間観察しました。



観察と撮影は堤防上からで巣までの距離が約40m。堤防は水面から7m程の高さがあります。
上から斜めに見下ろす位置と40mと言う距離から静かに観察すれば
親鳥に警戒心を与えず雛にストレスを感じさせない距離でした。



池の周りには葦原があります。
池の背後にあった葦原が2013年の夏から太陽光発電の工事が始まり,、
ソーラーパネルにとってかわりました。これまでの環境の一部が激変したことで、
セイタカシギの生息環境に今後どのような影響を及ぼすのかが心配されます。



主な観察点です。1つ目が雛の成長過程で、2つ目が雛の羽の変化、3つ目が松阪市での繁殖記録です。
1つ目の雛の成長過程をいつ雛が歩き、いつ餌を捕るのか、いつ泳げるようになり、いつ飛べるのか
親鳥と同じ大きさになるのはいつかをスライドで見ていきます。




2012年6月29日に1個目を産卵し、4日間かけて4個の卵を産み終え、7月2日に抱卵を始めました。



抱卵を始めてから23日目の7月25日午後2時に1羽目。午後4時に2羽目が孵化しました。
1羽目の雛が孵化して約3時間後に巣の下に下りだしました。2羽目も後を追うように動きだしました。
画像は午後4時47分の撮影です。2羽目の雛は孵化して約50分後に歩いたことになります。



2羽の雛はふらつきながら巣の下まで下りて巣に沿って歩き出しました。
最初に孵化した雛はこの時自力で餌を捕っていました。孵化して3時間後に餌を捕りました。

2羽目は餌を捕ることなく巣の上に戻りました。
孵化して1時間後ではまだ自力で餌を捕るところまで成長していないと思われます。



7月26日午前5時に3羽目。翌日の7月27日午前5時に4羽目が確認されています。
4羽目の雛が見られた27日の午前5時に卵の殻を数メートル先に捨てた親鳥が目撃されています。

雛は孵化して約50分後に歩いただけでなく、その日のうちに泳ぎました。
泳いでいる画像は4羽目の雛が生まれた約12時間半後の午後5時39分の撮影です。



セイタカシギは成鳥も若鳥も泳ぐのを見たことがありません。
しかし池の小さな中州で生まれた雛たちは生まれた日からよく泳ぎます。



冷えた体を温めるために親の懐に潜り込む雛です。親鳥の抱雛は孵化後10日続きました。

通常は♂親が周囲を警戒し、♀親が雛の面倒を見ることが多いですが
画像では♂親が雛を抱いて♀親が周囲の警戒に当たっています。
育雛に雌雄の役割分担は見られませんでした。



雛の捕食時の写真がここまで撮れなかったのですが
孵化後3日目の雛の捕食の瞬間が撮影できました。小さな虫のように見えます。



孵化後4日目です。
夕刻になると雛は40mほど離れた葦原の先端部のねぐらに泳いで移動します。
翌朝にはねぐらから巣に戻る雛が見られます。

なお、孵化後4日目と言うのは4羽目の雛が孵化した日の翌日を1日目として計算しています。



葦原に入った雛に葦原から出るように呼びかける親鳥です。
葦原の中では外敵が見えず雛を守ることができません。



孵化後7日目です。翼を伸ばそうとする雛です。



孵化後12日目です。雛は生まれた時はふわふわの綿羽に覆われていますが
孵化後半月近くなると外見から幼羽が明らかに分かるようになりました。
上面の黄褐色の羽縁のある羽が幼羽です。



孵化後20日目です。雛は小魚を捕らえるところまで成長しました。
なんども小魚を捕らえては飲み込みました。



ホウロクシギが近くに下りても親鳥は警戒しない。孵化後25日目にして他の鳥を威嚇しなくなりました。
親鳥の警戒心も雛の成長とともに薄れています。




孵化後26日目です。飛んだと言うより走っている感じでしたが
水面から空中に初めて体が浮いて10mほど移動できました。



孵化後27日目です。夕刻には決まったねぐらに向かう行動が続いています。



孵化後30日目です。他の鳥を威嚇しなくなった親鳥も同じセイタカシギは執拗に追っ払います。
同種に対しての警戒心が強いです。



4羽とも飛びました。約100m飛びました。自由に飛びました。
最後に孵化した雛で32日目でした.



孵化後34日目です。約1カ月でふわふわの綿羽から成羽と同じ作りの幼羽に換羽しました。
上面の羽模様がとても綺麗なフレッシュな幼鳥になりました。



孵化後36日目です。後ろの♀親に比べると雛はまだまだ小さいです。



孵化後60日目です。約2ヶ月で♀親と変わらぬところまで雛は大きくなりました。

当つがいの♀親は体が小ぶりなので雛はまだ成鳥と同じ大きさになったとは言えません。
セイタカシギは♂より♀の方が小さい傾向にあります。



孵化後66日目です。体の大きさから親子の区別がつかなくなりました。



次に主な観察点の2つ目の雛の羽の変化に焦点をあてて見ていきます。



孵化後3日目の雛です。綿羽に覆われています。



孵化後8日目です。まだ外見から明らかな幼羽が見えません。



孵化後15日目です。背・肩羽の幼羽が外見から明らかに分かるようになりました。



孵化後23日目です。幼羽への換羽が進み、頭部と後景にも幼羽が目立ってきました。



孵化後28日目です。中雨覆と大雨覆に部分的にまだ綿羽が残っています。
風切羽は伸長してきました。



孵化後35日目です。幼綿羽から全ての羽を幼羽に換羽しました。



孵化後128日目です。第1回冬羽に換羽しました。背・肩羽・三列風切が冬羽に換羽しました。
雨覆に淡色の羽縁のある幼羽が残っています。初列風切も幼羽です。

この日の夜半の大雨で池の水量が増し、当家族は池を離れて行きました。128日間の観察が終わりました。



主な観察結果です。今回の観察を通じて最大の関心事は
孵化した雛はいつから泳げるようになるのかでした。

以前、河川の中州で繁殖したコチドリの巣が大雨で流されたことがあります。
孵化後3日目の雛が翌日、対岸の堤防上に避難していました。
生まれて3日目の雛が中州から対岸の堤防に急流を泳ぎ渡ったのか不思議でした。
今回の7月27日の観察でセイタカシギの雛が孵化後12時間半後に泳ぎました。
コチドリ雛もその日のうちに泳げると推測できます。

ボラ池における一連の観察は池の小さな中州と言うことで貴重な観察記録になりました。



次に主な観察点の3つ目松阪市での繁殖記録です。



2013年に繁殖に失敗したつがいが同池に居残り2度目の産卵を始めました。
失敗してから8日目でした。2度目も卵を何者かに捕食され失敗に終わっています。



松阪市では2008年に猟師町の海岸堤防内側の小さな池で初めて営巣しましたが失敗に終わっています。
それから2年、松阪市での繁殖はなかったのですが、2011年から曽原町のボラ池で
繁殖が見られるようになりました。

2013年までの3年間でボラ池では5度繁殖が失敗し、成功は只の一度だけです。
ボラ池における今後の繁殖成功を期待しますが水位の変動、捕食者の侵入に加え
ソーラーパネルの設置の影響が危惧されます。

ソーラーパネルの取り付け工事が進んできた11月以降今日まで南ボラ池にセイタカシギが入らなくなりました。
工事音の影響かソーラーパネル自体の影響かはこれからを見ないとなにも言えません。

以上でセイタカシギの繁殖と雛の成長過程の発表を終わります。
なお、この観察にあたり4名の方のご協力を頂いていますがHP掲載に当たり名前を省略いたしました。




セイタカシギの繁殖生態・雛の成長過程

2014年1月25日 プレゼン